妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
とりあえず歩き出すべく手を引っ張ったけれど、彼の足を動かすことはできなかった。
「そうだな」と私の腰を引き寄せ、再び距離を詰めてくる。
「ねだってと言われたら、今の俺にはこれしか思い浮かばない」
恭介くんがゆっくりと顔を近づけてくる。私は頬を熱くさせながら、慌てて彼の唇を右手で抑えた。
「そ、そんなことしたら、お兄ちゃんに絶交されちゃうよ?」
「そんなの知るか」
しかし私の手は恭介くんによって容易く脇へと押しやられ、次の言葉を発する間もなく唇が押し付けられた。
「最高の誕生日だ」
彼の甘い囁きが、唇に残った余韻を艶めかせていく。
どっちつかずの感情に火がついてしまった気がした。
......違う。ただ単に、私は自分の気持ちと向き合うのが怖かっただけで、彼への思いの種は、きっとずっと子供の頃から胸の中にあった。
恭介君は私にとっても特別な存在。
それなのに、なんだかんだ理由をつけて本心から目をそらし続けるのは、自分に自信がないためだ。
学生の頃は、容姿端麗で人気者の恭介君と自分とでは釣り合わないからと、自分の思いを見て見ぬ振りをしていた。