妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~

大人になってからも、羽柴コーポレーションに入社できなかったことで挫折し、社会人として働き出すと自分がいかに無力だったかを身を持って知ったことで劣等感が強まり、恭介君への思いは心の奥底へと押しやられていった。

恭介君のお嫁さんになりたいと夢みていた。

けれど今のままでは、私はただのお荷物でしかない。

与えられるだけでなく、自分も彼の期待に応えることができる存在になりたい。

そうなれた時に初めてしっかりと胸を張り、恭介くんへの思いを伝えられる気がするのだ。

イベントの手伝いを引き受けた理由と心の中でちゃんと向き合い、私は思いを強くする。


「恭介君。私にチャンスを与えてくれてありがとう」


先へ進むための覚悟を持って恭介君を真っ直ぐ見つめた時、噴水の勢いが増した。

照明が当てられ、きらびやかなひと時が過ぎていく。

柱時計の盤面の数字の部分がくるりくるり回転し、九時半ちょうどを知らせるメロディも鳴り出した。


「まだ少し、一緒にいられるな」


彼にこくりと頷きかけると、どちらからともなく手を繋ぎ合わせ、歩き出す。

一分一秒でも長く、恭介君を見ていたい。

視線が重なるたび胸を熱くさせ、また笑顔の花が咲く。



その次の週から、慌ただしい日々が始まった。

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