妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
低いうなり声の如く響いた恭介君の言葉に、高志さんは顔色をなくす。
恭介君の真剣な横顔に胸がきゅっと苦しくなる。
渡さないのひと言に、今この場でも、そしてこれからもという意味まで含まれている気がした。
とても心強く、なにより嬉しかった。
「消えろ」
何か言いたそうだが言葉にならない高志さんへ恭介君が一喝する。
途端、高志さんの足がじりっと後退し始めた。
最後に私をひと睨みして、彼は背を向ける。
そして駐車場に停めてあった車に乗りこむと、荒々しいタイヤの音を立てつつ、この場から離れていった。
「美羽、大丈夫か?」
恭介君が私と向き合うと同時に、晶子先生も慌ててやってくる。
「美羽ちゃん、助けに入れなくてごめんね」
ふたりに笑みで答えてから、無意識に恭介君の腕に手を伸ばす。
掴んだ手が震えているのに気付くまで、それほど時間はかからなかった。
その手が温もりに包み込まれ、ハッと顔を上げる。
重ねられたのは恭介君の大きな手。
優しく指を絡ませ、大丈夫だと話しかけているかのように、軽く握りしめてくる。