妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
もちろん私を見つめる眼差しもとても温かく、弱っていた心に力が戻ってくる。
叔父の家の方を伺いながら、晶子先生が「早く家の中に入って」と私たちを促す。
それにいち早く反応した恭介君は私に「先に行ってて」と囁きかけ、手の中に温もりを残
して停めたままだった自分の車へと足早に向かっていく。
すっかり震えの収まった自分の手に笑みを浮かべてから、「美羽ちゃん」と呼びかけてきた
晶子先生へと身を翻し、「はい」と返事をしてから歩き出した。
家にお邪魔し、廊下を進んでいると、前を歩いていた晶子先生が振り返り、追いついた恭
介君へと話しかけた。
「タイミングよく帰ってきてくれたから助かったわ」
「なんだか胸騒ぎがして。帰ってきて良かった」
ホッとしている声につられて振り返ると、すぐに目が合い彼が微笑みかけてくる。
そんなちょっとしたやりとりがくすぐったくて、はにかんだ。
晶子先生はキッチンへ、恭介君と私はリビングのソファーに並んで腰掛けた。
メッセージが届いた音で、恭介君とほぼ同時にスマホを手に取る。
互いに相手が兄だと分かり、顔を見合わせて笑い合う。
そして、揃って返信せずにスマホを元の場所へ戻した。