妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
『お前ら、何かしたよな?』
短い一文でも十分すぎるほど、兄の不機嫌な顔が頭に浮かぶ。
きっと高志さんから叔父へ、叔父から兄に不満が飛び火したのだろう。
「またお兄ちゃんの負担になっちゃったかも。あとで謝らなくちゃ」
「あいつは美羽が思う以上にタフだぞ。何があったかなんてすぐに察して、今頃何倍にもして言い返してるよ」
「......そっか。お兄ちゃんならそうかもね」
笑い声を交えながら会話を楽しんでいると、晶子先生が良い香りの湯気が立ち上るティーカップをトレーに二つ乗せてやってきた。
「紅茶を淹れたわ。疲れたでしょう? お夕飯ができるまでふたりとも休憩していて」
「いえ。なにかお手伝いします」
晶子先生だって仕事を終えて帰ってきたのだ。
言葉に甘えるのは心苦しくてソファーから腰を浮かした瞬間、晶子先生がダイニングテーブルに足をぶつけ小さく悲鳴を上げた。
「あらあら。やだわ。どうしましょう」
悲鳴は痛みのせいではなく、テーブルの上に乗っていたものを床に落とし、そこに紅茶を
こぼしてしまったため出たものだった。