一途な溺愛王子様
「じゃあコウの財布からあたしは新しくジュース買うからいいや」


そう言って両手が塞がっているのをいいことに、コウのズボンの後ろポケットから出てる長財布をスッと抜き取った。


「あっ、おい泥棒!」

「……なんだ全然入ってないじゃん」


財布を開くと千円一枚しか入ってない。


「給料日前なんだっつーの」


そう言ってコウはあたしの頭の上にポンとミルクティーを乗せた。それを受け取ると同時に、財布は奪い返されてしまった。

コウは駅前のファミレスでバイトしてるって言ってたっけ。


「じゃあバイト代入ったら奢ってよ」

「なんでだよ」

「あたしケーキが食べたい」

「だからなんでなんだよ」


今度は拳を頭の上にポンと乗せられた。けどその手もすぐに退けられて、あたし達は再び中庭へと足を向けた。


「うーん、友達だし?」


とか適当なことを言うと、再び拳が飛んできそうだからあたしは素早くコウから距離を取った。


「俺は彼女以外に奢ったりしないタチなんでね」

「せこい男め」


温かいミルクティーで手が温まってきたところで、あたしはプルタプを開けた。

カシュ、という音が聞こえたかと思ったら、中からわたあめみたいなふわふわの湯気がたなびいた。


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