かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
何事も慌てず冷静に、を心掛けてきたつもりだった。それなのに、長嶺さんが相手だとどうしてもペースが乱される。なぜだかわからないけれど、彼の前だとつい冷静さを失ってしまいそうになるのだ。普段はこんなんじゃない。そして、ドキドキと自分でもよくわからない動悸にも悩む。

「あの失敗作の焼きそばはもう忘れてください」

「いや、忘れられないな。俺の記憶に完全インプットされた」

捉えようによっては嫌味にも聞こえる。そう思うのは私の性格がひねくれているからなのか、ただ単に長嶺さんが意地悪なのか。すると、長嶺さんの手がスッと私の頭をひと撫でした。

「別にわざわざお好み焼きにしなくても、俺は普通に食えたけどな」

「え……」

「君が俺のために作ってくれたものならなんでも食える。君のその気持ちが嬉しかったんだ」

長嶺さんはずるい。そんなふうに言われたら、私だって嬉しくなってしまう。急に気恥ずかしさがこみ上げてきて、彼の顔をまっすぐに見られずに視線を床に落とした。

「今すごく君にキスがしたい。いいか?」

甘くてとろけるような彼の口調が無性に私の羞恥を煽ってくる。恥ずかしがる私を茶化したくてわざとそうしているんだ、と思うとやっぱり長嶺さんは意地悪だ。

「な、なんでキスなんか……」

長嶺さんが言うキスの意味は、挨拶のキスじゃないことくらいわかる。すると、長嶺さんは堪えきれなくなったように私の頬を捕らえた。

「あっ……」
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