かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「まったく、あいつは何を考えているんだ……。芽衣、佐伯にはあまり近づくな」

「え?」

思いも寄らないことを言われて目が点になる。

近づくなって、どういうこと? それに“あいつ”って……。

長嶺さんはぶっきらぼうなところはあるけれど、誰かをあいつ呼ばわりしたのを聞いたことがない。しかも、女性に向かって……。

「恭子さんとは一緒に仕事してる仲間だし、そんなこと言われても……」

――人が好さそうに見えて結構腹黒いこと考えてたりしますから……。

そのとき、ふと、猪瀬君に言われた言葉が脳裏によぎった。

長嶺さん、恭子さんのことなにか知ってるの? でも、あれは猪瀬君の冗談だったじゃない、深い意味はないよね。

「ああ、そうだな。すまない、今言ったことは忘れてくれ」

自嘲気味に苦笑いすると、長嶺さんはスッとカウチから立ち上がり私に振り向くことなく螺旋階段を下りて行った。

なんなの……?

彼の言葉の意味もいきなり素っ気ない態度もわからないまま、私はしばらくカウチに座ったまま呆然としていた――。
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