かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「あのっ、恭子さんに聞きたいことがあるんですけど」

すかさず口を挟んで恭子さんの質問攻めを堰き止める。

「ん? なに?」

「恭子さん、さっき長嶺さんのことでなにか言いかけてましたよね? 以前は……って」

すると、恭子さんは「あー」と気の抜けたような声を出して天井を仰いだ。

「実は長嶺さん、お父様の会社に入る前は商業コンサルタントだったのよ」

「え……?」

コンサルタント? 長嶺さんが?

寝耳に水だ。初めて明かされる長嶺さんの過去。今思えば、私は彼のことを何も知らない。

「それはそれは泣く子も黙る敏腕コンサルタントでね……。あ、このこと誰にも言っちゃだめよ? 本人にもね」

恭子さんが唇に人差し指を当てて、「しー」とジェスチャーする。

「どうしてですか?」

言っちゃだめと言われたらその理由が聞きたくなる。恭子さんは「うーん」と小さく唸って言い渋ると、ようやく口を開いた。

「彼、真面目で不器用でしょ? 過去になにか思うところがあったみたい。聞くとすぐに機嫌が悪くなるから、あまり聞かないほうが身のためよ。館川さんも長嶺さんが昔、コンサルタントだったことは知ってる。けど、その話は禁句なの」

長嶺さんのことを親しげに語る恭子さんの口調から、彼と恭子さんは昔からの知り合いだったのだと直感した。
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