かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
『ピンバッジが見つかっただって?』

「はい! そうなんです。今日、猪瀬君から見つかったって電話があって……あ、猪瀬君って言うのはパティスリー・ハナザワのパティシエ見習いアルバイトさんなんですけど」

猪瀬君から電話をもらってからというもの、気持ちが落ち着かなくて仕事が終わってからすぐに私は長嶺さんに電話をした。スマホを耳にあてがいながら会社を出て、足早にアリーチェ銀座へ向かう。

「これから商業棟の屋上で待ち合わせしてるんです。ああ、本当によかった!」

『これからだな? わかった。確かにピンバッジが見つかったって電話をしてきたのは、猪瀬ってやつなんだな?』

「え、ええ、そうですけど……」

『そうか……』

一緒に喜んでくれるとばかり思っていたのに、なんだか長嶺さんの口調が少し険しい。それに、まるで電話をしてきた相手のほうが大事みたいな口ぶりだった。

「じゃあ、切りますね」

もしかしたら仕事で忙しいときに電話をしてしまったのかも、と私はまだなにか言いたげな長嶺さんとの会話を終わらせて屋上テラスへ急いだ。
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