かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
ここが屋上テラス……。

商業棟の屋上へは初めて来た。

一番最初に目を引いたのは、真っ白な石膏でできた噴水だ。静かに水が流れている。それに、夜は冷えるしこの時間だからかあまり人がいない。澄んだ秋の夜空に星が瞬き、噴水の周りに広がる溜め池の水面が照明にキラキラと照らされて、辺り一面幻想的な光景を醸し出していた。

残業が少々長引いたせいで、約束の時間よりも十分遅れてしまった。冷気が入って来ないように首元を引き寄せ、きょろきょろと猪瀬君の姿を探していると、噴水の近くにそれらしき人影が揺れた。

「あ、花澤さん。こんばんは、お疲れ様です。すみません、呼び出したりして」

「いえ、いいんです。屋上って初めて来たんですけど、綺麗な所ですね」

いきなりピンバッジに飛びつくのはさすがに気が引けて、挨拶がてらひとこと前置きする。

「休憩のときにたまにここへ来て気分転換するんですけど、いい所ですよね。あ、これなんですけど」

そう言いながら、猪瀬君がポケットからごそごそとティッシュにくるんだものを取り出し、早速それを私に差し出した。
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