かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「好きだ。愛してるんだ……早く君を長嶺芽衣にしたくてたまらない」

“愛してる”その言葉が弾丸のように私の胸を射抜く。恥ずかしくて、嬉しくて、おかしくなりそうだった。無意識に背けた顔を再び優しい力で彼のほうへ向かされ、大きな掌で頬を撫でられる。なんの涙かわからないけれど、いつの間にか湿っていた目元を親指で辿られればたちまち身体が火照った。

「……あんな賭け、しなければよかった」

「え?」

震える声で言うと、長嶺さんが頬を撫でる手を止めた。

「私の、負けです。長嶺さんのこと……好きです」

もうこれ以上、自分の気持ちに嘘をつき通せない。観念しよう。そう腹を括ったら頭で考える前に口から言葉がこぼれていた。

「私を、長嶺芽衣にしてください……」

「それは……本当か?」

「はい」

嘘もつけずに唇を噛み締めていると、固く結んだ唇の端にそっと長嶺さんがキスを落としてきた。涙目の私と目が合うと、彼は愛おし気に目尻を下げた。

「やっと素直になったな」

「え?」

「言っただろう? 君は必ず俺を好きになる、と」

ぎょっとして片手で顔を隠そうとすると、長嶺さんは声を立てて笑い、そして私の首筋に顔を埋めた。
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