かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
第八章 破かれた婚姻届
「よし! このパティスリー・ハナザワのプロジェクトもそろそろ終わりに近づいてきたな。売り上げも順調に伸びてきたし、クリスマスのイベントで盛り上げれば上々だろ……って花澤、お前どうしたその顔?」

翌朝、加賀美さんの明るい声でもっても吹き飛ばすことができないくらい、私の心はどんよりと曇っていた。そんな私の顔を怪訝に加賀美さんは覗き込んでくる。

「いえ、何でもありません」

「何でもないって感じじゃなさそうだけどなぁ、そんな顔じゃ説得力ないぜ?」

昨夜、『頭を冷やしてくる』と言ったまま、長嶺さんは今朝になっても帰ってこなかった。いつも起きると、リビングに用意されている朝食はなく、トーストを一枚かじって目を滲ませた。
あんなに酔っていたというのに、長嶺さんとのことがあったおかげですっかり酔いは醒めてしまい、眠ることもできずに今までで一番、最悪な朝を迎えた。

はぁ、やっぱり私すごい顔してるよね……。

目の下にはうっすらではなく、くっきりとしたクマ。泣きはらしたせいで目は腫れぼったいし、顔もむくんでいる。なんとかメイクで誤魔化したつもりだったけれど、加賀美さんに気づかれてしまった。
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