かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
時刻は二十時。

仕事をしている間だけは長嶺さんとのことを忘れられた。けれど、ほかのことを考える余裕ができた途端に昨夜のことがふつふつと思い起こされる。

あんなふうに怒らせるつもりはなかったのに、長嶺さんの切なげでやりきれないような表情が私の胸を抉った。

私は今、パティスリー・ハナザワに向かって夜の銀座を歩いている。

十二月に入り、街並みはすっかりクリスマスモードだ。綺麗に飾りつけされたクリスマスツリーや煌びやかなLEDのイルミネーションを見ていると、ほんの少し気持ちが落ち着いた。

バッグの中の婚姻届にあとは恭子さんのサインをもらうだけとなっていた。そして、週明けにでも長嶺さんとふたりで区役所に行くことになっている。

恭子さんに保証人のサインを今日もらって、それから長嶺さんには石野さんと二人で飲んだことをもう一度謝って、ちゃんと話せば大丈夫。

気持ちを前向きにして、嫌なことは考えないことにしよう。そうだ! お店でケーキを買って帰ろうかな。

おそらく、パティスリー・ハナザワとの契約も今年いっぱいで満了になるはずだ。そのことも恭子さんと話をしなくてはならない。店が立て直されてもその後のフォローはコンサルタントとして欠かせない仕上げの仕事だ。
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