かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「あんなにマティーニを一気に飲むくらいなんだから、君、実は結構いける口なんだろ? このワインはヴィンテージものでね、君に飲んでもらいたかったんだ」

深みのある赤い色、きっとワイン好きならひと口飲んだだけで美味しい代物に違いない。けれど、私はワインが苦手だった。

「もう、石野さん、僕が花澤さんと話してるんだから邪魔しないでくださいよー。あ、僕、前崎と申します。飲食系のコンサルタントです」

ごく自然に栗色のカラーを入れた髪色にまだ学生なのでは、と思わせる童顔で前崎さんは私にあどけない笑顔を向けた。そしてすでに酔っているのか、呂律も怪しく真っ赤な顔で石野さんに絡んでいる。

「お前、うるさいぞ。花澤さんをここへ連れてきたのは僕だってこと忘れてないかな?」

穏やかに笑っているようで石野さんの目は笑っていない。前崎さんは石野さんに制されてしゅんとした顔で項垂れた。

「あの、さっき長嶺先輩って……前崎さんは長嶺さんの後輩なんですか?」

長嶺さんとの関係が気になって尋ねてみると、前崎さんがパッと顔をあげた。

「はい。十年前にパリの会社でお世話になってた先輩です。久しぶりに長嶺先輩の名前を聞いて嬉しくなっちゃって……僕、ずっと先輩には謝らなきゃいけないと――」

「前崎、そろそろ黙れ」
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