かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
やだな……こういうの、すごく苦手。

「花澤さん、こっち座って」

コの字型をした真っ赤なスウェード地のソファに通される。そこには五人の男女が座っていて、彼らは一斉に私を見た。

「紹介するよ、こちらは花澤芽衣さん。あのパティシエの巨匠、花澤翔一氏の娘さんだ。長嶺の婚約者でもあるんだよ。みんな失礼のないようにね」

そう紹介されると、ソファに座っている全員が好奇の目を向けてきた。

「ここにいる連中はみんな長嶺のことも知ってるよ」

耳障りなBGMを理由に石野さんが私の耳に口を寄せて囁く。緊張で冷たくなったつま先には感覚がない。足の裏から大理石の床の冷たさがじわじわと伝わって全身を蝕んでいくようだ。

「えっ、長嶺先輩の? 本当に? どうやって知り合ったんですか?」

ソファの中央に座るように促され石野さんと座ると、早速隣の若い男性に話しかけられた。

「どう、と言われても……」

長嶺先輩? ってことはこの人、長嶺さんの後輩……だった人?

居心地が悪い。早く帰りたい。けれど、ここにいる人たちが長嶺さんとどんな繋がりを持っているのか知りたい。そんなジレンマに頭を悩ませていると、目の前に赤ワインが注がれたグラスを差し出される。
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