かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「ふふ、なかなかいい男になったじゃないか。無様だな」

そんなふうに罵られようと、長嶺さんはただじっと黙ってワインが滴る前髪を煩わしそうに後ろへ掻き上げた。

「大体お前は昔から気に入らなかったんだよ。コンテストで最優秀賞に選ばれておきながらそれを放棄して、繰り上げで受賞したお情けな俺はずっとなんて言われ続けてきたと思う?」

え……? 今、なんて?

長嶺さんと打って変わって冷静さを失った石野さんが思いも寄らないことを口にして、私は目を瞬かせた。

長嶺さんが……コンテストの最優秀賞に? 放棄って?

「花澤さん、ついでにいいこと教えてあげるよ。俺がつけてるこのピンバッジ、本当は長嶺の物だったんだよ。けど、コンサルタントを辞めて父親の会社に入るからって、前途のある未来のコンサルタントにって……受賞を放棄したんだ」

吐き捨てるように言うと、ぐっと長嶺さんのワインで染みたネクタイを鷲掴みにして引き寄せ、至近距離で睨みつけた。

「はっ、どんだけ偽善者ぶってるんだ。そのおかげで、俺はお前といつもいつも周りから比べられた。『本当は長嶺さんなの物なのに』『長嶺さんのほうがふさわしかった』ってね!」

「昔のことを今ここで言い争う気はない。ただこれだけは言っておく、彼女を守るためなら……プライドだろうがなんだろうがクソ喰らえだ。お前の侮辱には屈しない」

ネクタイを掴む石野さんの手を汚らわしい物を払うように叩くと、長嶺さんは乱れた胸元を整えた。

「くそっ……お前なんか……っ!?」

「やめてっ!」
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