かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
言わなくてもわかる。というように長嶺さんがゆっくりと首を振る。

「ずっとお前にそう言いたかったんだ。辛い思いをさせてすまなかった」

目を丸くしていた前崎さんの顔が泣きそうに歪めると、次にパッと顔を明るくさせて陽気な笑顔を向けた。

「石野さんの後のことは僕に任せて早く行ってください。ゴリラみたいに怒って追いかけてくるかもしれませんから」

前崎さんはそれだけ言うと、ぺこりと頭を下げて早々に部屋へ戻って行った――。

「あ、あの……」

「はぁ、本当は今すぐにでも君を抱きしめたいが……この成りじゃ――っ」

困ったように笑う長嶺さんを見ていたら、私はたまらなくなってワインで濡れるのも構わずぎゅっと彼に抱き着いた。

こんなふうに抱きしめる資格なんてないのに……。

「ここのサロンにはVIP専用でホテルがあるんだ。部屋を押さえてある。君には色々と話してもらわないといけないことが山のようにあるからな」

長嶺さんは柔らかく微笑んで子どもを宥めるように私の頭をひと撫でした後、スッと真顔になる。

「……はい」

その温かな手を頭に感じながら小さく頷くと、私は斜めに視線を落とした。
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