かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「いえいえ、いいんですよ。ここで立ち話もなんですから、よろしければ店内で少しお話できませんか?」

「いいんですか? お忙しいんじゃ……」

いきなり店に来て時間を取らせてしまい恐縮してしまう。こんなことなら、ちゃんと事前に電話しておけばよかったと後悔する。

「大丈夫ですよ。せっかくなのでまずはゆっくりしていただいて」

「すみません。お時間いただきありがとうございます」

今、ちょうど昼を過ぎたあたり。そろそろ三時のスイーツを買いに来るお客さんで忙しくなるはずだ。ピーク時前にここへ来たのは正解だったかもしれない。どのケーキがどれくらい売れるのか、人気商品はどのケーキなのか、購入者の年齢層などの動きも見ておきたい。コンサルタントとしての性がうずうずする。

館川さんに案内された席に着くと、テーブルに香り高い紅茶が運ばれてきた。

「改めて、この度はお悔やみ申し上げます。あまりにも突然のことでしたので、我々従業員もまだ戸惑っていまして……お恥ずかしいところをお見せしてしまうかもしれませんが、どうかご容赦ください」

館川さんは性格なのか、こんな娘みたいな年の私にでさえ丁寧に対応してくれた。けれど、そんなふうに仰々しくされるとかえってどうしていいかわからなくなってしまう。

「先代が亡くなられて、情けないことに売り上げが落ちるどころかスタッフまで離れていってしまって……それを見兼ねた部長が御社へのコンサルティングの依頼をしたんです。ああ、すみません、いきなり愚痴をこぼしてしまって」

館川さんは堪えていたようだけど、少し声が震えていた。それくらい今、この店の内部事情が芳しくないということだ。

「あのっ、このお店のことざっとで構いませんから少し教えてくれませんか? ここの施設のことでもいいし、初めて来たのでよくわからなくて……詳細はまたヒアリングのときにでも伺いますね」

とにかく話の流れを変えようと、明るい口調で言うと館川さが小さく笑って頷いた。
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