かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
財布をすられて一文無しになってしまい、たった一杯のパナシェの代金さえ払えなかったとき、不意に現れた冬也さんに助けてもらった。妙な賭けを持ち出してきたりして、初めは警戒していたけれど、まさかその人が今の私の旦那様なんてすごいラブストーリーだと自分でも思う。

『なんなら賭けようか、その約束が果たせるかどうか』

「え?」

ふふ、冬也さん、やっぱり約束のことまだ根に持ってるんだ。

私もそのカフェに行ってみたいけどね……。

「そうですね、いつか……は果たせると思います。けど、無理ですよ。できないほうに賭けます。だって冬也さんは日本にいるし、私だって明日帰国するし」

当分の間、パリで仕事をすることはないだろう。冬也さんも忙しい人だ、ふたりでまたこの地に来ることはできないかもしれない。だから、彼の提案した賭けは瞬間移動でもしない限り無謀だ。けれど、冬也さんから持ち出された賭けは必ず私が負ける。そのことが一瞬過った。

『ふぅん、そうか、じゃあ俺はできるほうに賭けるしかないな、勝ったらご褒美は存分に抱きしめてキスする。今すぐに』

「そんなことあるわけな――ッ!?」

その瞬間、いきなり背後から身体をふわりと抱きこまれ息を呑む。うっかり落としそうになったスマホを慌てて掴むと、鼻の周りに広がる覚えのあるフレグランスに思考が止まった。

「俺の勝ちだな」

耳元で囁かれ、掠めるようなキスに私は目を瞠る。
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