かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
驚く私を至近距離で見つめ、勝ち誇った表情で微笑んでいるのは紛れもなく、日本にいるはずの冬也さんだった。

「どっ……な、なんで?」

金魚みたいに口をパクパクさせて何度も目を瞬かせて見るけれど、やっぱり目の前にいるのは彼だ。

「あはは、日本で再会したときと同じ顔だ」

上機嫌に冬也さんは私の隣に腰を下ろす。

「なんとなく今夜君がここにいるんじゃないかって気がしたんだ。俺の勘もまんざらでもないな」

「あの、本当に冬也さんですか?」

まさか、誰かが冬也さんに変装してる……とかじゃないよね?

疑心暗鬼な目を向けている私に、まだ信じられないのか、と冬也さんが小さく噴き出した。

「成田まで君を迎えに行くつもりだったけど、待てなかったからここまで迎えに来た。これで約束も果たせるだろ?」

そう語る冬也さんはひとりで楽し気にしている。そして彼はパナシェを注文すると、私の驚いた顔を酒の肴にそれを呷った。

「も、もう……びっくりし過ぎて心臓が止まるかと思いました」

「あはは、それは困るな」

カウンターに置いた私の手に冬也さんが手をそっと重ねる。恋焦がれた温もりがじわじわと私の全身に巡って、この上ない多幸感と冬也さんがここにいるのだという現実味が広がっていく。

「あの、ずっと聞きたかったんですけど凱旋門の近くのカフェ、冬也さんにとってなにかこだわりがあるんですか?」

彼の一押しなのはわかる。ケーキが絶品とも言っていた。けれど、そのほかにもなにか理由があるような気がしてならなかった。
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