かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません

第二章 まさかの再会

「な、なんで……？」

信じられなかった。放心して手にしていたスマホを危うく落としてしまうところだった。
金魚みたいに口をパクパクしながら、瞬きも忘れて平然と目の前に立っている彼を見入る。

「あはは、なんて顔してるんだ君は」

スマホを切って胸ポケットにしまうと、彼はゆっくり歩み寄って私の隣に座った。その瞬間、ふわりと大人っぽい香りが鼻を掠める。それはパリで出会ったときと同じ香りだった。

「どういうことですか？　まさか、パリから追いかけてきた……とか？」

現実を突きつけられても、まだ状況が理解できなくて心臓がバクバクいっている。

「さぁ、どうだろうね」

意味深なことを口にして、彼は私と同じ飲み物を注文する。

「私、こういう者です。どうぞよしなに」

おどけた口調で、彼は名刺をスッと私に手渡した。

――長嶺不動産商業マネジメント株式会社　開発運営管理部部長　長嶺冬也(ながみねとうや)。

白地にシンプルに書かれた文字、会社のロゴが入った名刺に何度も目を滑らせる。

「長嶺……冬也？」

この人、長嶺冬也……さん、っていうんだ。

ようやく明かされた名前を頭の中で何度も反芻する。

「そういや、あのとき名前言ってなかったな」

長嶺さんはそう言って先ほど注文したパナシェを手に取った。