かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「あの、私ともう一度賭けをしませんか?」

「なんだって?」

意表を突いた私の提案に、長嶺さんが一瞬意外だというような顔をした。

「今度は一体どんな賭け事だ?」

「私がその三カ月間で長嶺さんを好きになるかどうか、です。ちなみに私は好きにならないほうに賭けます」

言われっぱなしじゃ悔しい。すべてを鵜呑みにする気なんてさらさらない。すると、長嶺さんはなにがおかしかったのか、声を立てて笑いだした。

「あはは、本当に君は面白い人だ。それで? もし、君が勝ったらどうする?」

「長嶺さんの願い事を即刻取り下げてもらいます」

私がはっきりそう言うと、彼は「なるほど、そうくるか」と呟いて、パナシェを呷った。

「君はなかなか策士のようだな、君といると退屈しなさそうだ。じゃあ、俺は君が俺を好きになるほうに賭けよう。君はきっと俺を好きになる……というか、好きになってもらわなきゃ困る」

「ずいぶんな自信ですね。そもそもなんで私と結婚なんかしたいんですか?」

「自信がなきゃ、結婚して欲しいだなんて言わない。それに、結婚したいって言ったのは、ただ君のことが気に入ったからだ。それに……」

じっと見つめられてドキッとすると、長嶺さんが口の端を少し押し上げた。

「君には父上の店を立て直すという使命がある。君の腕前を拝見させてもらうよ、俺の目に狂いはないだろうからな」

どうして私があの店を担当するって知ってるの? もしかして、加賀美さんが長嶺さんになにか話したのかな?

それに君の腕前を拝見させてもらうよって……あっ!?

そこで私は気がついた。父の店は商業施設のテナント店だ。基本、店の責任者とプロジェクトを進めるのが普通だけど、最終的な先方の責任者はオーナである施設の開発運営管理部部長の長嶺さんだ。

ということは……長嶺さんとも一緒に仕事をするってことだよね?

動揺しそうになるのをぐっと堪えて平静を保つ。
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