かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「あー! 疲れた!」

こんなに長い一日は久しぶりだった。

すべての体力を使い切ったみたいになって疲労困憊で滞在しているホテルに戻る。「おかえりなさいませ」というレセプショニストの声にもろくに返事もできず、私は部屋に入るなり即ベッドにダイブした。

夜道は危ないからと、ホテルまで長嶺さんがタクシーを回してくれて、しかもホテル前まで同乗してくれた。そして人目を憚ることなくまたおやすみのキスをされて、パリで別れたときの記憶が蘇った。

長嶺さんか……。

今まで結婚なんて考えたこともなかったし、仕事が私の伴侶だなんて本気で思っていた。ただ私のことが気に入ったからといって、結婚して欲しいだなんて安易すぎるにも程がある。きっと長嶺さんにとっての結婚は、靴やバッグを買うみたいな感覚なのだろう。

はぁ、偶然って怖いな……。

パリで会った人と再会するなんて、まだ狐につままれたみたいだ。

私はバッグの中に手を突っ込んで、ICチップの埋め込まれている一枚のカードキーを取り出した。銀光したつるつるのカードキー、ちなみにこれはホテルの部屋の鍵じゃない。

――仮にも夫婦になったんだ。一緒に住むのは当然だろ?

――俺はアリーチェ銀座の住居棟の最上階に住んでるんだ。職場からも近いし都合がいい、お互いにな。

「はぁぁぁ……」

肺腑の底から長い長いため息をついてベッドに突っ伏す。
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