かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
何を隠そう、私は長嶺さんと明日からひとつ屋根の下で一緒に生活をすることになってしまった。このカードキーは長嶺さんの部屋の鍵だ。アリーチェ銀座は私の会社からも近いし、十五分も歩けばたどり着ける。

パリで仕事をしていたときはなにかと残業も多く、家に寝に帰るだけの日が続いたこともあった。そのことを考えると長嶺さんの言う通り、家と職場が近いのは都合がいい。それに、個人的にひとつ困ったことがある。

それは給料をもらうまでまったく収入がないということだ。貯金も大した金額が残っているわけでもない。それで生活費などを工面するとなると、ホテルに滞在し続けるのもさすがに限界があった。

そ、そうだ! 長嶺さんはただのシェアメイト! そう思えばいいんだ。

「そうは言っても……はぁ」

無理やりポジティブ思考にもっていこうとしても、出てくるのはため息ばかり。

あのまま、即結婚! って、ならなかっただけ状況はまだマシなのかな……。

長嶺さんは謎だらけだ。ルシェスにいたことは本当に偶然だったとしても、私がパティスリー・ハナザワのコンサルタントとして担当することをすでに知っていた。

私の何をどこまで知っているのかわからない得体の知れない人。けれど、なぜだか同じ空気でいることに違和感のない人。

明日の仕事のことを考えるよりも、私の頭の中は長嶺さんのことですでにいっぱいだった。彼にしかわからない答えを悶々と考えていると、次第に瞼が重くなってきてシャワーを浴びることなく私は眠りに落ちていった。

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