かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
繋いだ手を通じてこの高鳴っている鼓動まで伝わってしまうのではないかとドキドキしてしまう。

「手が冷たい人は緊張しやすい。ということは感情が大きく揺れやすいということだ。それを感情豊かで心温かいという説があるの、知ってるか?」

長嶺さんは私の歩くスピードに合わせて、長い足の歩幅を調整しながら歩いている。長嶺さんはそういう気遣いができる人だった。

「それって、絶対迷信だと思いますよ。長嶺さんはどう思います?」

「さぁな、実際君は心温かな人だろ? まんざら迷信でもなさそうだ」

長嶺さんから笑顔を向けられると胸の奥の罪悪感が疼く。

私の何を知って心温かな人、だなんて言うんだろ……だって私は……。

今は仮の夫婦。ということになっているけれど、私は賭けに勝って長嶺さんの「結婚する」という願い事を撤回しなければならない。だから、ずっと彼を好きにならない方法を模索しているというのに、私の腹積もりを知ったらきっと心温かな人だなんて思わないはずだ。

「それにしても、もう九時を回っているってのに、この時間からこってり系のラーメンが食べたいなんて、案外君の胃袋はタフなんだな」

「私の胃袋は時間なんて関係ないです。朝起きたてで普通にハンバーグとかいけますよ。あっ、そういえば、今朝の朝食ありがとうございました。なんだか久しぶりにしっかりしたものを食べたというか……」

いけない、いけない。うっかり朝食のお礼を言いそびれるところだった。話の流れで思い出してお礼を言う。
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