溺愛なんてされるものじゃありません
「じゃあ着替えてから主任の部屋にお邪魔しますね。」

「分かった。唐揚げだけじゃ足りないだろうから何かもう一品くらい作っておくよ。鍵は開けとくから勝手に入っていいから。」

私は自分の部屋に入り、髪を一つにまとめいつものスエットに着替える。流石にこんな色気のない格好してたら、理性がなくなることはないでしょう。

そして冷蔵庫からビールを取り出して、少し考え込む。主任の部屋でご飯食べるなんていつもの事なのに、この緊張は何だろう。胸のドキドキが治らない。

私…何か期待してる?

取り敢えず、ミント飴を舐めて緊張を和らげ、主任の部屋にお邪魔した。

部屋に入るとテーブルの上に白い湯気が立ちのぼり、覗き込んでみると湯豆腐とポン酢醤油に薬味まで準備されていた。

「家にあるものだとこんな料理しか作れなかったが良かったか?」

「わぁ湯豆腐嬉しい〜。ありがとうございます。」

早速テーブルの前に座りビールで乾杯する。熱々の湯豆腐をポン酢醤油につけてパクッと口に入れた。

「ん〜美味しい。」

主任はビールを飲みながら私を見て微笑んでいる。そして話を始めた。

「この前は本当に悪かったな。」

「謝るような事…したんですか?」

「そりゃ赤崎の同意も得ずに暴走してしまったから…申し訳ないと思っている。」

話す主任の表情からも申し訳なさが伝わってくる。私は箸を置いて話をする。

「あの、怒ってないですから謝らなくていいですよ。本当に嫌な時はあーなる前に逃げてますから。私…恥ずかしかったんです。主任を前にしてドキドキし過ぎて頭が真っ白になって…。それでなんか顔合わせ難くなっちゃって。」

「…嫌ではなかったのか?」

えっそこを確認しますか?話を聞き流す感じで良かったのに。

「嫌では…なかったです。」

私は恥ずかしさから俯き加減に小さな声でそう呟いた。

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