溺愛なんてされるものじゃありません
「やっと二人になれたな。お疲れ様、美織。」

「…カフェで話した事、全部聞いてたの?」

高成が降りた後、美織との座る距離を縮めて話をする。

「あぁ、聞いたよ。俺への愛もしっかりとな。」

「そ、それは…それは蓮さんに直接言いたかったな。」

美織は恥ずかしそうに俯き、頰を紅くさせ小さな声で言った。

「それはすまなかった。」

美織の肩に手を当てグイッと俺の方に引き寄せる。やっと美織との時間が戻ってきた嬉しさから顔が緩みっぱなしだ。

最寄りの駅に着き二人で電車を降りる。一応会社の人がいないか確認して、駅を出て二人で歩き始めた。

途中、お腹が空いたし食料を仕入れて家に帰る。美織に食べたいものを聞いたらお鍋と言うから、今夜は美織の好きなすき焼きにしよう。

そういえば付き合い始める前からすき焼き食べたいってよく言ってたな。あの頃はまさか美織とこんな関係になるとは思いもよらなかった。

「蓮さん、何か顔が笑ってない?」

「そうか?気のせいだろ。」

美織の事を考えるとどうしても表情が緩んでしまうみたいだ。気をつけよう。

家に着くと、スーツから部屋着に着替えて、早速すき焼きの準備に取り掛かる。

「私も手伝う。」

美織もキッチンに立ち、俺の隣に並んだ。

「エプロンないし、服が汚れるぞ?」

「大丈夫大丈夫。」

そう言ってご機嫌そうに水で野菜を洗い始めた。

「じゃあ俺は割り下作るから、野菜切ってもらっていいか?」

「OK〜。」

そういえば美織が料理する姿は初めて見るな。ちらっと野菜を切る美織の姿を見た。

「み、美織…大丈夫か?」

洗い終わった野菜をまな板に置き、包丁を持つ美織の手はプルプルとしている。

「あはは、野菜を切るのって緊張するね。」

緊張…なのか?今度は大きく深呼吸をして勢いよくダンッダンッと野菜を切り始めた。

「い、いや美織。野菜は俺が切るから割り下の味を見てくれ。」

野菜のカケラが顔に当たる。料理が苦手って本当だったんだな。

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