溺愛なんてされるものじゃありません
「頂きます。」

すき焼きが完成して二人で食べ始める。

「美織、肉ばっかりじゃなくて野菜も食べろよ。」

「はいはい。」

そう言いつつ、美織は鍋の中から肉を取って食べる。

「ん〜美味しい。やっぱり女子力に料理は欠かせないよね。料理教室にでも行こうかな。」

「料理なら俺が教えるし、無理に女子力上げなくてもいいだろう…っていうか俺以外に女子力アップしたところ見せなくていいから。」

「ところがそうはいかないんだよね。」

美織は小さな声でボソッと呟いたが聞き取れなかった。

「何か言ったか?」

「何でもない。」

二人で話をしながらすき焼きのを食べ終えて、食後の紅茶を入れる。そして美織の隣に座った。

「美織、抱きしめていいか?」

「えっ…うん。」

美織が俺の元に戻ってきた…愛おしくて美織をそっと抱きしめる。美織も俺の背中に手を伸ばしぎゅっとする。

このまま押し倒して抱いてしまいたい…けど、俺は必死に理性を保ちしばらく美織を抱きしめていた。

「…蓮さん?」

美織の声を聞いた瞬間、無意識に俺は自分の唇を美織の唇に重ねていた。5秒くらいして重ねていた唇を離すと、美織のポーッとした表情が愛おしくてまた唇を重ねる。今度は自分の意思で美織にキスした。

そして唇を離し、美織の頭をポンポンとする。その後はまったりとした時間を美織と過ごし、日付が変わった頃に美織は自分の部屋に帰っていった。

明日も仕事だしこれで良かったのかもしれないが…本音を言えば俺の家に泊まって欲しかった。何度も『今日は泊まっていくよな?』って言いかけたけど言えなかった。

何故ならば、美織が泊まっていったら100%抱くだろう。でも、今の俺には美織を抱くのに躊躇してしまう理由があった。

シャワーを浴び、ベッドに転がって天井を見上げる。このベッドの上で美織をだいたんだよなぁと思い出し溜め息をついた。

そして更に思い出す…。このベッドの上で抱いた次の日に美織に別れようと言われた事を。

もしかして別れたいのは、美織は優しいから言わないだけで、杉村の件だけじゃなく俺との身体の相性が合わなかった、もしくは俺が下手過ぎて美織を満足させる事が出来なかったからでは…と考えてしまったのだ。

もちろんそんな事はないと…思いたいが、そんな余計な事を考えてしまい何となくキス以上の事をするのが少し怖かった。

「なんてヘタレなんだ俺は。美織を抱きたくてしょうがないのに。」

そして、なかなか寝付けない夜を一人で過ごした。

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