ボクソラ☆クロニクル

「……戻るよ。カルロスになんかお茶でも出してもらおう」
「本当にコックさんみたいですね、カルロスさん」
「良いんじゃん? 義務でもなんでもない。当人がやりたくてやってるんだし」

 確かに。調理場に立つカルロスさんは、なんだかとても楽しそうだった。

「……僕もそう」

 ポツンとルドルフさんがこちらに視線を向けることもなく小さな言葉をこぼした。

「さっきさ、なんで空賊になったのって言ったじゃん」
「はい」

 そう言うとルドルフさんは目を細めて、ホワイト・アリス号のボイラーを見上げた。大切なものを慈しむような目線、彼がどれだけこの船を、そしてここで暮らす彼らのことを思っているのか。その一端が見て取れるようだった。

「ここがぶっ壊れたらアリスは地に落ちる。それをさせないために、僕はこの船に乗っている。空賊じゃなくたって別に良い」

 この船と、彼らがいてくれるのなら。
 肩書きなんてどうでも良い。
 ジャバウォックを乗せてホワイト・アリス号が空を駆けている、今この瞬間に全ての意味が込められているのだとルドルフさんはそう言った。

「これで満足?」

 向けられたアメジストのような双眸。
 その瞳からはほんの少しだけ、これまで向けられてきた懐疑の色が抜けているような気がした。

「はい、ありがとうございます」
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