【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「姉様、お帰りなさい!」

 飛び出してきたのは、弟のルークだ。エルシーと同じ金髪の髪が少し跳ねている。

「ルーク、屋敷内を走ってはダメと、いつも言っているでしょう。当主たるもの、いつでも落ち着きを失ってはいけないわ」

「ごめんなさい」

「とは言っても、あなたの元気な姿を見られて嬉しいわ。はい、これを」

 エルシーは再び鞄から本を取り出すと、ルークに差し出した。

「あ、これ、欲しかった歴史の本だ。ありがとう、姉様!」

 弟の茶色の瞳が輝くのを見て、エルシーも口もとを綻ばせる。

「お母様は?」

「最近は日中も春の日差しが部屋内に入りますので、お身体もだいぶ良くなっていらっしゃいます」

 マティルダの言葉に安堵して、エルシーは母の寝室へと向かった。



 久々に見た母の顔色は、以前よりもかなり良くなっていた。日差しのある時は、起き上がって屋敷内を歩けるのだという。でも、徐々に食が細くなっているようで、エルシーは不安を感じざるを得なかった。

 それでもそんな胸中は一切表情に出さず、エルシーは明るく振る舞い、皆とお茶を楽しみ、一家団欒の時を過ごした。ささやかな夕食のあと、母が早めに就寝すると、今度は弟の勉強を手伝った。家庭教師を雇う余裕はないことをエルシーは申し訳なく思ったが、図書室の書物を読み漁り、独学で知識を増やそうと頑張るルークは、間違いなく自慢の弟だ。

 それが終わると、家の掃除や雑用に回る。ずっとこの家にいられればいいのたが、自分が無職になるわけにはいかない。エルシーが自室のベッドに入った時には、とっくに深夜を回っていた。
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