騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「一介の侍女であった私にこれほどまでにお気遣いいただきまして、王太后様のご慈悲に心より感謝申し上げます。私にできることがありましたら、何なりとお申しつけください」

「そう言ってもらえると心強いわ。……では早速で悪いのだけれど、王女の世話つきとして東の砦へ向かってくれないかしら」

 思いがけないアンドレからの要請に、エルシーは目を丸くする。

「順調にいけば約一週間後、ジェラルドたちは王都に戻ってくるのだけれど、途中でその砦に立ち寄って休むらしいわ。でも王女の身体が気がかりね。病み上がりでしょうし、また体調に異変があってはいけないわ」

 アンドレアとしても、これ以上婚姻を延期するのはいかがなものかと、気を揉んでいるようだ。エルシーはこの時、今日の登城の名目を理解した。アンドレアは城塞行きをエルシーに命じるために、わざわざ呼んだのだ。今や表向きは、エルシーが引きこもりだったティアナ王女を部屋から連れ出し、ジェラルドと対面させたおかげで、ふたりはとても仲睦まじくなった……という筋書きになっている。当然アンドレアも替え玉の件は知らない。そのため、エルシーに絶大な信頼を寄せ、今回も世話役に抜擢したのだろう。

 単に夫の無事を知らされるためだけに呼ばれたのではないとわかったが、エルシーは嫌な気持ちはしなかった。これでアーネストと一刻も早く会えると思ったら、命令ではなくむしろ恩恵だと思える。

「仰せのままに」

 エルシーは、はやる気持ちを抑え頭を垂れたあと、速やかに退室した。出発は明朝。急いで帰宅すると、使用人総出で出発の準備に取り掛かった。

 
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