【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
翌朝、王宮に到着次第、普段通り王女つきの侍女に戻ったエルシーだが、その表情はいつもより固い。
よほど母親の容態が芳しくなかったのだと、侍女仲間たちは心配したが、全員が声をかけるのを躊躇していた。それほど、エルシーの全身には重い空気が漂っていた。
無論、彼女の憂鬱の原因は、母とは別のところにあるのだが、当然それを周囲は知るよしもない。
昨日、最後に何か言いたげだったアーネストの顔を頭から切り離せないまま黙々と仕事を続けていると、いつの間にか昼休憩の番が自分に回ってきた。
常に誰かが王女のそばに控えていなければならないので、侍女たちの昼休憩は時刻で定められてはおらず、手の空いた者から順番に取る仕組みになっている。
「エルシー・ウェントワース殿!」
陰鬱な心持ちで使用人食堂へ向かっている時だった。背後から聞こえてくる足音とともに声をかけられ、エルシーは振り向いた直後、身体が硬直してしまった。
第一騎士団の黒い団服が視界に飛び込んでくる。一瞬アーネストかと思い、ヒヤリとしたのだが、改めて見ると全くの別の青年だった。
「呼び止めてしまい申し訳ありません。先ほどグローリア王女殿下のもとを訪ねましたが、休憩に向かわれたとのことでしたので。こちらを預かって参りました」
若い騎士は一通の手紙を差し出す。エルシーが礼を述べて受け取ると、騎士は一礼してすぐに踵を返した。
(誰からかしら?)
何気なく封筒を裏返す。封蝋に押された印が第一騎士団の紋章、交差した二本の剣であることを認識した途端、エルシーの心臓はドキリと跳ねた。
この印を押せる権限を持つのは、第一騎士団長のみ。――つまり。
(アーネスト様からの手紙……!)