【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 ルークに明るい光をもたらしたのも彼だ。自分ではあの笑顔を引き出せなかっただろう。それなのに――。

『貴方は何もわかっていらっしゃいませんわ』

 不躾な発言で、一方的に彼を追い返してしまった。盗まれた宝石について、事情を知らない者からすれば、いつまでも手元に置いておく理由がわからなくて当然だ。今になって、彼の言い分は正論のひとつだと理解できる。

(……ただの八つ当たりだわ、私の態度は)

 この家を守って家族を支えてきたのは自分だという自尊心が、無意識のうちに芽生え、大きくなっていたことに気づく。宝石の件で言及される以前に、家の現状を突きつけられ将来展開の甘さを指摘された時点で、その自尊心という名の驕りが過剰に反応し、苛立ってしまったのだ。

 いつのまに、こんなに嫌な女になってしまったのだろう。いざ困難にぶつかると、何もできない、非力な存在でしかないのに。

 思い上がりもいいところだ。

(……何もわかっていなかったのは、私の方よ)

 アーネストに謝りたいと、素直に思う。だが、彼はきっと怒っていて面会すら許されないだろう。

 急遽、取った休暇なので、明日には王宮に戻らなくてはならない。アーネストは第一騎士団長として職務にあたっているため、一介の侍女であるエルシーの前に姿を現さないとわかっていても、全く出くわさないとは言いきれない。

 その時、彼から向けられるであろう氷よりも冷たい視線を想像し、エルシーは重苦しく息を吐いた。

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