騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「……それは言わなくてもよかっただろう。まったく君という人間には本当に驚かされるよ。まあ、それを聞いて相手が受け入れたというのも充分驚きだけどね」

「良き夫婦となれるよう、最善を尽くします」

「確か彼女は最初、母上の侍女ではなかったかな。私も目をかけておこう。……さて、他にも言いたいことがあるんじゃないのか?」

 ジェラルドは瞳の奥に鋭い光を宿すと、姿勢をもとに戻した。その視線を、アーネストは顔色ひとつ変えずに黙って受け止める。

「これからは自分の保護下にあるから、例の件で彼女への手出しは許さない、と念を押しに来たんだろう?」

「許さない、などど、そのような不敬な発言、私ごときが口にできるはずもありません。それに、例の件はまだ本人の耳には届いていないようです」

「まあ、まだ内密事項だからね。……ともかく、君たちふたりを心から祝福するよ。この国の王ではなく、ひとりの友人として」

 ジェラルドは先ほどまでの硬い表情を崩して、柔和に微笑んだ。その表情に偽りは感じられない。
 
 彼は王太子時代に、慣例として一時騎士団に身を置いていた。その時、出会ったのが四歳上のアーネストだ。練習相手となった大抵の騎士は、ジェラルドの身分を考え、手加減しているのが見て取れたが、アーネストだけは王太子であろうと容赦なく、全力でジェラルドの相手を務めた。身をわきまえろと腹立たしく感じたこともあったが、その執拗な鍛錬のおかげで、剣の腕前は今や騎士団長と並び称されるほどである。それに、保身のために誰かに媚びたりしないアーネストの実直さを、ジェラルドは案外気に入っていた。

「良かったな、アーネスト。長年の本懐を遂げられそうで」

「……ご報告は以上ですので、これにて退室をお許しいただきたく存じます」

 アーネストは特に否定することなくその問いを受け流すと、深く一礼したのち、王の執務室をあとにした。

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