騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍

 一方、エルシーがこの婚約に前向きな意思を固めた数日後、異変は起こった。
昔のように再び〝声〟がきこえるようになったのである。

(嘘……でしょう?)

 耳をふさいだところで無意味なのはわかっているので、意識を逸らすためにいろいろ試みてはみたのだが、声たちはところ構わず、エルシーに話しかけてくる。しかし、常にそういう状況にあるのではなく、全く聞こえない時も多く、試しにこちらから意識を集中させても何の反応もなかったりと、声たちの様子は一定していない。そしてしばらくすると、また向こうから勝手に話しかけられているといった具合である。

 そんな状態が続けば、エルシーもいい加減うんざりしてしまい、認めたくはないが〝見えない彼らの声〟を受け入れざるを得なかった。

(前みたいに放っておけば、また聞こえなくなるに違いないわ)

 しかしその二日後。街で行われる植物の品評会に出席する予定のグローリアが、王室専用の馬車に乗り込もうとしていた時だった。

『乗ッテハダメ!』
 
 その声は、突然エルシーの頭に響いた。

 数年前、父が出立した日に聞いた、同じ言葉。

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