騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
(反応してはダメよ……)

 そう自分に言い聞かせるものの、声は次第に大きくなる。

 あの日の記憶が鮮明によみがえる。父はあのまま出発した。そして、二度と帰らなかった。

 悲しくて、悔しくて、止められなかったことを後悔した。父にどんなに怒られたとしても止めるべきだった。

 そう、〝声たち〟は正しかったーー!

(もう、あんな思いをするのは嫌よ……!)

 エルシーは咄嗟に馬車の前に飛び出すと、グローリア王女のゆく手を遮るように、その場に膝まづいた。

「グローリア様、どうかお戻りくださいませ……!」

「ちょ、ちょっと、何してるの⁉」

 周囲の侍女たちが慌ててエルシーを立たせようと腕を掴んだ。しかし、エルシーはさらに平伏し、留まろうとする。異様な光景に、周りには護衛騎士だけでなく衛兵も集まってきた。尋常ではないエルシーの様子と他の侍女たちの攻防に、グローリアは言葉を失ったが、すぐに表情を引き締め、落ち着いた声で命じた。

「まだ時間はあるから、何が問題なのか直ちに調べなさい」

< 39 / 169 >

この作品をシェア

pagetop