【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 扉が開かれ、エルシーはアーネストに手を引かれながら馬車を降りる。車内での彼の最後の言葉が心地よく、なんだかふわふわとした足取りで地上に立ったエルシーだったが、すぐに身体が硬直した。

(なんて大きい館……いいえ、お城よ、これは!)

 目の前には、荘厳な石造りの城館が改めて、自分が国内屈指のそびえ立っている。周囲に他の建造物がないこともあり、その大きさがさらに威光を放っていた。国内屈指の名門貴族に嫁ぐのだと改めて自覚する。

 アーネストの話だと、祖父と父はずいぶんと厳格な性格だったようだ。ここに住んでいる祖母もそうだったらどうしよう。エルシーの家柄は許容範囲内だとしても、今の没落ぶりをしったら結婚相手には相応しくないと反対されるだろうか。

「大丈夫か? 手が震えている」
「は、はい……私、アーネスト様の将来のために、いつでも身を引く覚悟はできています」
「……どこからそんな発想が舞い降りてくるんだ」

 呆れ口調のアーネストは、エルシーの手を自分の腕につかまらせると、大理石の階段をゆっくりと上り始めた。玄関先には仕立てのいい黒服を着た壮年の男性が立っていて、ふたりが姿を現すと深く腰を折った。

「お帰りなさいませ、旦那様。ようこそおいでくださいました、エルシー様。私は家令のブレントと申します」

 エルシーもドレスをつまんで礼の姿勢を取る。

「大奥様もおふたりの到着を心待ちにしていらっしゃいますよ。ですが、まずはお部屋で長旅の疲れをお取りになってくださいませ」

 ブレントの優しい笑顔に、エルシーの緊張も次第にほぐれていく。ふたりは用意されたそれぞれの部屋に案内されると、アーネストの祖母に対面するために身なりを整えることにした。

 
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