【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍

 それから数十分後、アーネストとエルシーは廊下で落ち合い、ともに祖母のもとへと向かった。
 通されたのは明るく開放的な談話室だった。南側は一面は大きなガラス窓になっており、陽光が部屋中に行き届いている。至る所に花や植物の植木が設置されており、一瞬エルシーは温室を連想してしまった。

 アーネストの祖母と思われる老婦人が、窓近くの肘掛け椅子にゆったりと身体を預けて座っている。髪こそ真っ白なものの肌艶は健康的で、気品溢れる婦人だ。
 アーネストが帰館の挨拶をし、エルシーが緊張の面持ちで自己紹介すると、祖母は柔和な笑顔でふたりを迎え入れた。
「いらっしゃい、ふたりとも。私がアーネストの祖母のニコラよ。婚約の話は聞いているわ。本当におめでとう」

「……ありがとうございます。セルウィン公爵家の名に恥じぬよう尽力し、アーネスト様をお支えします」

 ニコラが心から婚約を祝福してくれたことが嬉しくて、エルシーの目元が潤む。

「本来なら応接間にお通しするのが筋なんだけれど、こちらに来てもらってごめんなさいね。今は日中のほとんどを、陽当たりのいいこの部屋で過ごしているの。ここの空気を吸っていると、とても気分がいいのよ」

「ええ、そうですね。確かにここはとても明るくて、空気も美しいです」

 ふたりに近くの長椅子を勧め、にっこりと微笑むニコラに、エルシーも同調した。しかし、ただ見た目だけでそう言ったのではない。この空間に入った瞬間、複数の〝声〟の存在を微かに感じ取ったのだ。直接エルシーに話しかけてはこないので、何を言っているかまでは認識できない。ただ、笑い声にも聞こえ、喜んで歌っているようにも思える。それらはエルシーの意識を向けさせるほど強い念ではなく、あえて言うなれば小鳥のさえずりのように心地いい音だった。

  
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