【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「大変お見苦しいところをお見せしました」
ケレット氏が深く頭を下げる。
「妻は普段は明るいのですが、時々娘のことになると、このように……。マディは、なかなか子宝に恵まれなかった私たちにやっとできた子でして、私も妻もとても可愛がり、大切に育てていました」
一同は再び、席に着くことになった。ケレット氏の横には、夫人が力なく肩を落として座っている。
「……わ、私はただ、マディの魂がここに留まっているなら、その声を聞きたいだけで……」
夫人はうつむいたまま持っていたハンカチを握りしめた。そのやや憔悴した様子を見て、エルシーは静かに口を開いた。
「ここに足を踏み入れた瞬間、重い空気を感じたのは確かです。悲しい声のようなものも」
「じゃ、じゃあ、……! ええ……ええ、そうでしょう、やっぱり娘はここにいて、悲しくて彷徨っているんですね……?」
「いいえ、残念ながらお嬢様の声ではありません」
望みが叶ったかと明るい表情で顔を上げた夫人だったが、エルシーの神妙な面持ちとその回答に、再び言葉を失った。
「あなたが望んでいる答えを、私は用意することができません。そんな力は、そもそも持ち合わせていないのです。私が聞こえるのは、自然や空気などに宿る思念のようなものだけです。お嬢様への愛情の執着が、悲しい声を呼び寄せているんです」
「で、では、どうしろと言うの……? 忘れろとでも?」
「そうではありません。失った人のことなど忘れろ、なんて考え方、横暴以外の何ものでもありません。大切な人はいつまでも心の中にいて当然です。生前、こうしていればよかった、という後悔もまた、相手を大切に思っていた証拠です」
エルシーは、小さく息をついた。それは、自分にも当てはまることだったからだ。父へ対する後悔は、いつまでも心から消えない。