【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「その悲しい感情とやらを、詳しくお聞かせ願えないでしょうか……? この家に入って来た時に感じた重い空気というのも、その影響では?」

 夫人がさらに手に力を込め、エルシーの目を凝視してくる。答えを聞くまで逃すものか、という心情が見えてくるようで、エルシーは少したじろいだ。そんな夫人の行動に、ケレット氏も心配して、そばまでやってくる。

「お、おい、お前、突然失礼じゃないか。エルシー様が困っていらっしゃる」

「あなたは黙ってて。私は少しお話が伺いたいだけよ。エルシー様はこの家の空気が悲しみに満ちていることを感じ取られたのよ。きっと、マディが」

「何度言ったらわかる。マディはもういないんだ」

「どうしてそんな冷たいことが言えるの。なんてひどい人!」

 夫人は声を荒らげたが、瞬時に自我を取り戻し、口元を手で押さえた。なんとも言えない重い沈黙が部屋を覆ったが、いち早くそれを破ったのはアーネストだった。

「マディというのは?」

 問いつつもアーネストはもちろん、エルシーにも大方察しはついている。だが、自分たちはあくまで今知った体を装わなくてはならない。

「……私たちの娘です。二年前、病気で他界しました」

 思った通りの答えが、ケレット氏から返ってきた。
< 84 / 169 >

この作品をシェア

pagetop