【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「ですが、私のような力を持つ人間に、死者の声を聞かせようとする、あなた方の気持ちが、お嬢様の幸せな思い出がつまったこのお屋敷の空気を悲しいものに変えているんです。アンナに触れた時に、すべて分かりました。私も彼女と同じ力を持つので、力のあり方を誤解される辛さはわかります」

 後半の一部は嘘だが、アンナを守るため、エルシーはあえて話を貫いた。アーネストもそんな彼女の思いを察してか、発言を訂正しない。

 エルシーは優しく微笑んで、夫人を見つめる。

「私のような若輩者が出過ぎたことを申しました。お許しくださいませ。ですが、願わくば、どうかお嬢様の魂を繋ぎ止めることにとらわれるだけでなく、たくさんの素晴らしい思い出とともに、前を向いていただけないでしょうか……?」

 そして、上体を前に出し、夫人の手をそっと握った。

 夫人はしばらくその手をみつめていたが、やがて小さく嗚咽をもらし、顔を伏せた。その肩にケレット氏がそっと手を回す。

「わしも悪かった。お前の気が済むまで好きにさせてやりたいと思ったが、間違っていた。マディとの思い出をないがしろにし、わしも後ろ向きになっていた。これではこの先いつかマディと再会した時に怒られてしまうな。そうならないように、胸を張って生きていこう」

 ケレット氏の言葉に、夫人の涙腺が決壊した。その横で、アンナも静かに涙を流している。

 アリガトウ、という微かな声を聞き取り、エルシーは顔を上に向けた。見えないが、空気が少し澄んだような気がする。横を向けば、穏やかな表情のアーネストと視線が交わり、エルシーにも自然と笑みがこぼれた。



 西に日が傾く中、エルシーとアーネストを乗せたセルウィン公爵家の馬車が、砂埃を上げながら道を疾走している。向かう先は、アーネストの領主館ではなく、ヴィンス・オーモンドの屋敷だ。

 ケレット邸をあとにする前、ふたりは夫妻から情報を聞き取っていた。

『ここに先に来た三人なら、ヴィンスさんにお願いして新しい引き取り先を探してもらいました。……すぐに手放してしまい、今は本当に自分たちの行いを恥じています』

『エルシー様が、アンナと同じ能力をお持ちだということは、ヴィンスさんから聞きました』


 これらの証言をもとに、今度はヴィンスに直接話を聞きに行くところだ。

 まるで不良品を交換するような行いをしたケレット夫妻は許されるべきではないが、これから責任を持ってアンナを育てると、固くふたりに誓った。

そして、三人の子供が無事に新天地で暮らせているのかどうかも確認しなくてはならない。

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