君と紡ぐ物語は、甘くて愛おしい。


そういや、去年の私もそうだったな。
そんなことを思っていると、彼は徐に顔を上げた。

…なんか空っぽだな。何となくそう感じた。
友達と喧嘩でもしたのかな?

…いや、こんな良い子が、ここまで虚ろになるほどの喧嘩をするはずがないか。
決めつけはいけないけど。

てか、何も言ってこない。


「貴哉くん?」

「彼氏…?」


少しだけ掠れた声で、そう言ったように聞こえた。


「彼氏…とは?」

「昨日の。あれ、女の子じゃないよね?桜って、聞こえたけど」


佐倉のことか…?
あー、まあねー。桜ちゃんに変換しちゃうよね。

…いやっ、でも。貴哉くん、私が佐倉といる所なんて見てたっけ。


「昨日、帰り際に…仲良さげにしてる所をたまたま見かけて。一緒にいた人は顔見えなかったけど」


あー、佐倉がトイレ行ってて来るの遅かったから、後から来た貴哉くんが偶然見かけたんだろう。


「桜ちゃんじゃなくて、佐倉くん。苗字が、佐藤の佐に鎌倉の倉で、佐倉」

「うん」

「あと1つ。何を勘違いしたのか知らないけど、佐倉は彼氏じゃない」

「え…?」


何故か彼は、少しだけ安堵したような表情を見せた。でもまだ、複雑そうに見える。
…何でだ、ホント。


< 36 / 273 >

この作品をシェア

pagetop