君と紡ぐ物語は、甘くて愛おしい。
そういや、去年の私もそうだったな。
そんなことを思っていると、彼は徐に顔を上げた。
…なんか空っぽだな。何となくそう感じた。
友達と喧嘩でもしたのかな?
…いや、こんな良い子が、ここまで虚ろになるほどの喧嘩をするはずがないか。
決めつけはいけないけど。
てか、何も言ってこない。
「貴哉くん?」
「彼氏…?」
少しだけ掠れた声で、そう言ったように聞こえた。
「彼氏…とは?」
「昨日の。あれ、女の子じゃないよね?桜って、聞こえたけど」
佐倉のことか…?
あー、まあねー。桜ちゃんに変換しちゃうよね。
…いやっ、でも。貴哉くん、私が佐倉といる所なんて見てたっけ。
「昨日、帰り際に…仲良さげにしてる所をたまたま見かけて。一緒にいた人は顔見えなかったけど」
あー、佐倉がトイレ行ってて来るの遅かったから、後から来た貴哉くんが偶然見かけたんだろう。
「桜ちゃんじゃなくて、佐倉くん。苗字が、佐藤の佐に鎌倉の倉で、佐倉」
「うん」
「あと1つ。何を勘違いしたのか知らないけど、佐倉は彼氏じゃない」
「え…?」
何故か彼は、少しだけ安堵したような表情を見せた。でもまだ、複雑そうに見える。
…何でだ、ホント。