恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
私が叫んだからか、目を見開いている瀬良さんを見つめた。
「どういうつもりで声をかけてくるんだか知らないけど、私たち、ちゃんと別れたじゃない……。なのに、どうしてまだそんな話を聞かされなくちゃならないの? 聞きたくないのに……もうこんな話したくなくて、忘れたいから、別れたのに」
苦しさを逃がしたくて、は……と息を吐くと、涙が落ちる。
いつの間にか溜まっていた涙が、つ……と頬を伝っているのは分かったけれど、拭おうとも、泣き顔を隠そうとも思えなかった。
ただ、はやく瀬良さんから離れたくて、それだけだった。
「〝あんなことで〟って瀬良さんが思ってるのは知ってる。いつまでも拘ってる私がおかしいのかもしれない。だけど……どうしても、私にとっては〝あんなこと〟じゃない。今も、考えたらツラくて仕方ないし、思い出すのも嫌。だからもう、やめて……お願い」
最後は消え入るような声になった。涙も止まらないし、呼吸は苦しいままだ。
寒くないのに体が震えるせいで、奥歯がカチカチと音を立てる。
そんな私を、瀬良さんがショックを受けたような顔で見ていた。
帰り道、人の波に流されるように最寄り駅までを歩いた。
そこまで遅い時間ではないため、駅に向かうビジネスマンが多く、私の視界はスーツだらけだ。
瀬良さんとのことがあったせいで、ドッと疲れてしまっていた。
あれから、モデルハウスの施錠をしたいと言うと、瀬良さんは何か言いたそうにはしたけれど、そのまま出て行った。
納得していないみたいだったし、またふたりきりになったら同じ話題を持ち出してくるかもしれない。その可能性を考えると胸の底が怖さで固まり息苦しさが蘇った。
ただの同僚としてなら私だってうまくやれるのに、瀬良さんはいちいち過去を持ち出してくる。
お互いに仕事上だけの関係でいたほうがなにもかもスムーズに進むのは、瀬良さんだってわかっているだろうに……と思い、ため息が落ちた。