恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


このまま私のことは放っておいてくれたらいいのに、というのが本音だった。そうじゃないと、私だっていつまでも瀬良さんに縛られたまま動けない。

そもそも、瀬良さんはどうして私にこだわるんだろう。

ハッキリ無理だと何度も伝えているのに、顔を合わせば気を持たせるような態度ばかりでいい加減困る。

瀬良さんの気持ちがどうであろうと私が応えられないという事実は変わらない。あの過去がある以上、絶対に無理だ。
感情に流されて瀬良さんの手をとったりしたら、そのあとがただ苦しいだけなのはわかっている。

瀬良さんが好意みたいなものを向けてくるたびに拒絶しているのだから、早く見切りをつけて次の恋を見つけてくれたらいいのに。

いっそ、私も新しく恋ができたらいいのに、瀬良さんが目の前にいる限り、瀬良さんに強烈に惹かれているせいでなかなか他の人に目が向かない。

別に、外見だけが好きなわけじゃないけれど、例えば瀬良さんと同じくらいにキラキラした人だったら私の気持ちも動いたりするんだろうか……。

そう思い、なんとなく周りを歩く男性を観察する。
もう駅前なため、そこら中にビジネスマンがいるけれど、失礼な話、その誰にも胸はときめかない。
男性は、こんなにいるのに。

ひょっとしたら私は、このまま誰にも惹かれることなく、瀬良さんへの初恋の呪縛から逃れることなく人生を終えるのだろうか。

自分の恋心の重さに少しひく。こんなヘビー級じゃなく、ライト級な恋心がよかった。
目が合ったらコロッとロマンスの世界に引き込まれてしまうような、そんな――。

……と、トボトボ歩きながら現実逃避するあまりバカなことを考えていたとき、ひとりの男性の姿に目が留まる。

スラッとした長身に、小さな顔。明かりの漏れる駅舎を背に立っているため、逆光で細かい顔立ちまではわからないけれど、美形っぽい雰囲気がある。

待ち合わせなのか、ただ立っているだけなのに、まるでモデルみたいだ。その証拠に、その人を遠巻きに見ている女性グループが色めきだっている。


< 101 / 171 >

この作品をシェア

pagetop