恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
翌日、朝からなにかが違っていた。
更衣室で着替えているときも、なにやらコソコソ話をされていたし、部署にくるまでの廊下でも視線を感じた。
しかも、名前もよく知らないような社員から見られるから気味が悪い。
北川さんや瀬良さんとは違って見た目だってごく普通の私が、どうしてこんなに視線を集めているんだろう。
……という問いの答えは、先にデスクについていた柿谷先輩が教えてくれた。
「あ、白石! なんかすごい噂になってるけど大丈夫?」
「噂? 私の噂ですか?」
そんなの誰が面白がるんだろう。
私は、ネームバリューは弱いどころかないに等しい、普通の社員だ。よっぽど内容がヘビーじゃなくちゃ誰も食いつかない。
でも、私自身にそんなネタはないだけに不思議だった。
眉を寄せていると、先輩が教えてくれる。
「昨日、白石と誰かがモデルハウスで喧嘩してたって噂になってるよ。白石がわめいて泣いてて、とにかく普通の状態じゃなかったから、きっと別れ話だとかじゃないかって。相手は特定されてないみたいだけど、瀬良さんの名前が出てた」
「昨日って……あー……」
すぐに思い当たり、顔をしかめた。
昨日、たしかに瀬良さんと言い合いになった……というか、私がひとりで怒鳴っていた。
あの時間は、通常ならモデルハウスはもう施錠して消灯している。それなのに電気がついていることを不思議に思って様子を見にくる社員がいてもおかしくはない。
玄関から覗いたとき、正面に私は立っていた。瀬良さんは玄関と私の間で、玄関に背中を向けていたから……それでそんな噂になったのだろう。
……しかし。そんな、誰に見られるかもわからない状態で私は散々わめいて泣いてしまったのか……と、頭が回らなかった自分に落ち込む。
そもそも消灯の時間だとかそういうこと関係なく、社内で就業時間内にあんなプライベートな話なんてするべきじゃなかった。
私が黙り込んでしまったからか、「白石?」と心配そうに呼ぶ先輩に、少し迷ってから口を開く。