恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「別に、バラそうとかそんなことを考えてるわけじゃないから、そんな警戒しないでよ。現に、瀬良からその話を聞いたのは三月だとか四月頃だけど、今も噂にはなってないよね。バラす気ならとっくにそうしてるよ」
それは、その通りかもしれない。
でも、だからといって安心はできない。
私にわざわざ、元恋人だということを知っていると言ってきた理由はなんだろう。なにかしら目的はあるはずだ。
そう思い、警戒をとかずに見ている私に、田村さんは困ったような笑顔を浮かべた。
「いや、本当にバラすつもりはないんだよ。これからも」
そう言ったあとに「ただ……」と付け足した田村さんがこちらを見て口の端を上げる。
「後輩の瀬良に営業成績簡単に抜かれて、その後も返り咲きするどころか突き放されて、自信もプライドもなくしかけてた俺からすると……突きたくもなるんだよね。瀬良の弱みをさ」
それを聞いて、さっき柿谷先輩が話していたことを思い出した。
『まぁ、瀬良さんがモテるのもわかるけどね。先月も営業成績トップだったって話だし。もし、私が男で同じ営業部だったら、さすがにこれだけずっとトップに居座られたら戦意喪失してやさぐれるかも』
田村さんは、瀬良さんがくるまではずっとトップを走っていたっていう話だ。その座を奪われたまま取り返せないでいるのは、きっときついものがあるのだろうというのはわかる。
でも、だからってここで励ますのも慰めるのも逆なでする気がして黙っていると、田村さんが続ける。
「俺が見る限りでは、瀬良はまだ白石さんとのことを吹っ切れていないんじゃないかな。そんな白石さんが俺にちょっかい出されてるって知ったら、瀬良は気が気じゃないよね。どう思う?」