恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
……ん?と思う。
どう思うも何も……さっきから、なにが目的だろうと身構えていたけれど、話を聞いている限り田村さんの要求はこれ以上先はないようで気が抜けた。
肩の力を抜き、豆乳のパックにストローをぷすりと差し、ひと口飲んでから田村さんを見る。
「田村さん。ぬるいですよ。それだとなんの脅しにもなってないです」
苦笑いで告げた私に、田村さんはキョトンとしていたけれど、気にせず続けた。
「今のことを気にした私が、瀬良さんに泣きつくと思いましたか? 昔の関係がバラされるかもしれないとか、田村さんに変なことを言われた、とか。それを聞いた瀬良さんが気持ちを揺すぶられて仕事に支障が出るとでも考えているんだとしたら、色々甘すぎます」
「甘い……?」
「まず、関係をバラされたところで昔のことですし、ちょっと仕事がしにくくなるけどまぁ仕方ないかなって程度です。それに、田村さんに言い寄られたところで、わざわざ瀬良さんになんて告げ口しないですよ。そんな依存した関係ではないので」
見当違いもいいところだ。
そんな情けない女に見えていたのかな、と思いながら言う。
「瀬良さん、なんでもできちゃうから、異性からも同性からも好かれてたけど、同性のなかには瀬良さんを敵視するひともいたんです。そういう人たちにとって、私が瀬良さんの弱みにはならないようにって、ずっと考えながら過ごしてきました」
瀬良さんが人気があるのは仕方ない。
羨ましすぎて恨まれてしまうのも。
だから、私は強くならなくちゃダメだと思った。そういう人たちに、瀬良さんを陥れるための駒に使われないように。
私のせいで瀬良さんがツラい顔をするのは嫌だと思ったから、付き合い出してから別れるまで、私が勝手に意識していたことだ。
瀬良さんが好きだったから、絶対に依存したくなかった。