恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「でも、もったいないよね」
美香の声に顔を上げる。
「なにが?」
「瀬良、外見のよさでいったらぶっちぎりだし、当時だって今だって憧れてる子が相当いるでしょ。そんな瀬良と付き合えてたのに、たった一回の浮気で別れちゃうなんてもったいないじゃん。実は後悔してるとかないの?」
スッと、温度が下がった気がした。
ずっと同じ場所に立って話しているのに、目の前にいる美香との距離が急に離れたような錯覚に陥る。
急にトンッと肩を押され、突き落とされる気分は、今まで何度も経験したものだった。
だって周りに何度も言われたから。
『たった一回の浮気』って。
〝たった一回なんだから〟許すべきなんだろうか。
〝たった一回なんだから〟笑って流せなかった私が悪いの?
美香にそんな気がないのはわかっていても、責められているようでうまく笑顔が作れない。笑え笑えと命じても、口は引き結んだまま動かない。
ざわざわという音が、どんどんと遠くなり、指先からどんどん熱がなくなっていく。
みんないるのにひとりぼっちにされたような不安感が襲い、ひゅうっと呼吸がおかしな音を立てそうになったとき――。
「もっと言ってやってよ」
心臓をギクリとさせる声が聞こえ、勢いよく顔を上げた。
私の背後に立った瀬良さんは、グラス片手に困ったような笑みを浮かべていた。