恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―

「その人とは今も続いてるの?」
「ううん。前回の同窓会のときにはもう……就職を機に別れたから」
「へぇ。なんで?」
「九州出身のひとでね、地元で就職するって言ってたから」

答えながらも瀬良さんの強いまなざしを感じ、嫌になる。
こんなに空気が重たいのに、瑞恵も美香もなにも感じていないように軽快に会話を続けていた。

「そうなんだー。たしかに九州との遠距離は、よっぽど好きな相手とじゃなきゃ続けられないかも」
「だね。会うってなっても交通費だけで相当な出費になるし、お互い社会人一年目じゃお金も気持ちも余裕ないしね。私でも別れるな」

会話に混ざる素振りを見せないくせに、ここから離れようともしない瀬良さんの無言の圧力がすごい。

足が地面にめり込んでいくんじゃないかと思うほどの重力に耐えかねて「私、お手洗い……」とその場を離れた。

私は瀬良さんとやり直したいだなんて思っていない。瀬良さんが誰と付き合おうが自由だし、自分から関わっていくつもりもない。

ただの同僚でいい。幼馴染の距離も、もういらない。

それなのに……なんで瀬良さんの方が執拗に関わってくるんだろう。
ゆすぶるような眼差しを送ってくるんだろう。

瀬良さんだって、私と別れたあとそれなりに彼女はいたと、瀬良さんのおばさんが話していた。
だったら、また彼女を作ればいいのに、どうして私に突っかかってくるのかがわからない。

やり直すつもりはなくても、感情は瀬良さんの仕草ひとつでジェットコースターみたいに動くから、いたずらに接しているのならやめて欲しい。

冷たくなった指先が、わずかに痺れていた。


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